これはふざけた悪魔が始めた恐ろしいゲームのようなものだ。
この悪魔はどこの国が賢いのか見極めようと高みの見物をしている。
理にかなった対応をすれば死者を少数に押さえることができるが一歩判断を誤れば膨大な死者がでてしまう。
だから、このゲームの本質を理解できない国は深刻な結果を招いてしまう。
ふざけた悪魔は地球上の全員をゲームのこのプレーヤーにしてしまった。
誰ひとりこのゲームから降りることは出来ない。
あなたは感染を避けなくてはならないし、万が一感染しても他のひとに感染させてはいけない。
そうしない限り、感染は拡大していく。
私たちは個人でできることと政府に実行させることを適切に組合せ戦略をたてて闘わなくてはならない。
2021 年 1 月 8 日に発出された緊急事態宣言は二度の延長がなされ二ヶ月半を経て 3月 21 日に解除された。
菅首相は 3 月 8 日に一都三県にたいして二週間の延長をする際、「この二週間でなんとしても抑え込む」と意気込みを見せたが、この最後の二週間では新規感染者は横ばいからやや増えるという結果となった。(まあ、感染から潜伏期を経て発症、検査、結果確定、報告までだいたい二週間かかることを考えれば 3 月 8 日の延長時にはすでに二週間先までに発表される新規感染者数は確定済みだった。そしてこの二週間の成果は 3 月 21 日以降に発表されてわかるのである。)
それにもかかわらず解除である。
私たちの国では緊急事態宣言というのは単に「宣言だけ」であり、具体的な対策と連動していない。
緊急事態宣言の解除後、行動制限を緩和していくと言われているが、今の所、一都三県では飲食業の時短が夜八時までから夜九時までと一時間営業が長くできるようになることぐらいしか違いがないようだ。
新規感染者の発生は下げ止まりからゆっくり増えていくという状況へ変化しているが、宣言の「解除」は一般の人に対して「今までのように自粛をしなくても良い」というメッセージをおくる結果になるだろう。
なんとちぐはぐなことだろう。
相変わらず、私たちの国には新型コロナを乗り切る戦略などないことがはっきりした。
新型コロナが蔓延してからもう一年以上がたった。
ここであらためて、新型コロナを乗り切るための戦略について整理しておこうと思う。
以下に書くのは別に自分が考えたことでも何でもなく、とうの昔から広く知られていることを自己流にまとめただけのものである。
まず、戦略を理解するためにまず感染症の広がる特徴やメカニズムについて見ておこう。
感染症の広がる特徴やメカニズム
誰かが別の誰かへ移すことによって感染は拡大する
ウイルスがかってに移動して広まっていくことはない。
つまり、人々が協調して動きをコントロールすることにより完全に制御可能なはずである。
私たちは新規感染者を倍々ゲームで増やしてしまう
感染が広がる勢いは、感染した人が回復(または死亡)するまでに平均何人に感染させてしまうかによって決まる。(この人数は実行再生産数と呼ばれている。)
たとえば、回復(または死亡)するまでに 平均 2 人に感染させてしまう状況が続いていくとする。
この場合 はじめに感染者が 1 人だったとしても感染者の数はある日数ごとに平均的に
1 人→ 2 人→ 4 人→ 8 人→ 16 人→ 32 人→ 64 人→ 128 人→ 256 人→
のように増えていく。
また、はじめに 500 人だったら感染者の数は
500 人→ 1000 人→ 2000 人→ 4000 人→ 8000 人→16000 人→ 32000人→ 64000人→ 128000人→
のように増えていく。
(どちらの場合も 8ステップ後にははじめの人数の 256 倍になっている)
ドラえもんが好きな人はバインバイン、ソロリ新左衛門とかきっちょむ小話を知っている人は 殿様がくれる褒美の話を思い出すとわかりやすいかもしれない。
また Washington Post の記事 コロナウイルスなどのアウトブレイクは、なぜ急速に拡大し、どのように「曲線を平らにする」ことができるのか の中のアニメーションを見ると良いかもしれない。
平均的に何人に感染させてしまうのかは人と人の接触の度合いによって決まる
ある地域のある時点での感染の拡大の勢いはその地域でその時点での全体的な人と人の接触の度合いで決まる。
この接触の度合いは人々が協調して行動制限することで下げることができる。
たとえば、ある地域のある時点で何も対策しない場合に平均的に1人の感染者が 2.5 人に感染させてしまうぐらいの感染力をウイルスが持っているとき、皆がみんな、人と人の接触の度合いを $\frac{1}{5}$ に減らせば (つまり 8 割減らせば)1 人の感染者から平均的に 0.5 人にしか感染させない状態が実現される。
何人増えたかではなく何倍になったかが重要で私たちがコントロールできるのはこの倍率である
たとえば 1ヶ月掛けて 500 人から 1000 人に増えるのと 1ヶ月掛けて 50000 人から 100000 人に増えるのはどっちも 1ヶ月で 2 倍になるので感染の広がる勢いはおなじだ。
つまりどちらも本質的に同じ状態である。
ここで大事なのは、どちらの場合でも感染者が2倍に増えていく1ヶ月間の国民の行動制限の程度や努力・我慢の程度は同じということだ。
感染者数を一定に保つためにしなければならない努力・我慢の程度は感染者が何人いるときでも同じ
たとえば、感染者が今 10 人いるときその後も 10人のままに保つためにしなければならない努力・我慢と感染者が今 1000 人いる時にその後も 1000 人のままに保つためにしなければならない努力・我慢は同じ。
一旦感染者をゼロにすると簡単には増えなくなる
ある地域で一旦ゼロになるとその地域の外から感染が持ち込まれない限りゼロのままである。
だから、国境管理を徹底しモニタリングをして万が一の事態に備える努力は必要になるが、個々人は感染者を一定に保つためにしなければならない努力・我慢に比べてもさらにゆるい努力・我慢で済むようになる。
以上に述べたようなことを瀬戸亮平さんはゼロコロナとwithコロナという記事の中でつぎのような絵を使って説明している。
斜面のどの場所にボールがあったとしても転げ落ちていかないように下から支えるために必要な力は同じだ。
つまり、感染者が何人だろうが、感染者をそのまま一定に保つために必要な努力や我慢の程度は同じことをあらわしている。
また、とにかく頑張って早く一旦ゼロにして水平な場所に行くと、その後は外から突かれない限り落ちていくことがない。
つまり、一旦ゼロになると簡単には感染者は増えないことをあらわしている。
二つの関門
あなたが感染してしまうと感染の連鎖のを引き継いでしまったことになる。
さらにあなたが誰かに感染させてしまうと感染の連鎖が広がり、特に二人以上に感染させてしまうとその時点で感染拡大に寄与したことになる。
たぶん大丈夫なはずと思われる事をあちこちでおこなったり繰り返しおこなうと結局感染は拡大する
つまり、とてもわずかな確率でしか起こらないこともあちこちで多くおこなわれれば結局たくさん起きるということだ。
たとえば確率 $\frac{1}{1000}$ でしか起こらない危険なことも、あちこちで繰り返し10000 回行えば平均的に $\frac{1}{1000}\times 10000 = 10$ 回起こるということを高校で数学を学んだ人なら理解できるだろう。
新規感染者の発生を減らすために使える手段
以前の記事にも書いたが、次に新規感染者の発生を減らすために使える手段を簡単に振り返ってみることにしよう。
- 社会全体で協調しておこなう行動制限
これは、誰が感染しているのかわからないためにおこなわれる。
ある期間にわたって時短営業、休業、外出自粛、集会中止、移動の制限、出勤や通学の制限などをおこなう。
人が集まらなければ誰かから誰かへ感染するということはおこらないわけだから、これらは確実で強い手段と言える。
ロックダウンと呼ばれる対策では、このような強い行動制限をほぼすべておこなっている。 - 検査・追跡・隔離
これは、感染している人を発見し隔離することによって感染していない人との接触を断ってしまう手段である。
また、感染させてしまったかもしれない人(接触者)を追跡し、その人がもし感染していることが分かれば隔離をおこなう。 - 個人レベルの感染予防対策
これも、誰が感染しているのかわからないために使われる手段である。
マスクの着用、手洗い、消毒、換気、ソーシャルディスタンシングなどの手段によって人と人との接触の度合いを減らす。
しかし、これは人が集まることを前提にしていて、人は集まるけど感染はギリギリのところで食い止める、つまりウイルスはすぐ近くにあるかもしれないけれど絶対に取り込まないようにする事を狙ったもので、確実性に劣る弱い手段と言える。
どんな戦略があるのか
では本題に入ることにしよう。
感染症を収束させる戦略は基本的に次の二つである
- 封じ込め戦略(ゼロコロナ戦略)
- 集団免疫の獲得により感染を収束させる戦略
ではそれぞれ見てみることにしよう。
封じ込め戦略(ゼロコロナ戦略)
ロックダウンと呼ばれるような強い行動制限と検査・追跡・隔離を大規模におこなうことにより国内または域内の感染者をゼロにし、ゼロになった後はなるべく長い期間ゼロを保ち続ける戦略である。
感染が広がりはじめた場合、衣食住を支えるインフラ機能や医療など最低限の機能以外はすべて止め、人が集まる事や外出を強く制限し、人から人へ感染する機会を徹底的に減らす。
もちろん空港などでの水際対策も徹底的に厳しくおこない、国内へのウイルスの侵入を阻止する。
新型コロナの場合、感染者が他の人へ感染させる恐れのある期間は発症後 2、3週間程度と言われている。(10日程度というデータもあるし、一方いま増えつつある変異株ではもっと長いかもしれないと言われている。)
だからいずれにしてもとにかく国や地域全体で最低でもその程度の期間は人と人の接触をたてば、感染力のあるウイルスはその国や地域では存在しなくなるわけである。
また、強い制限をかければ掛けるほど人と人との接触機会は減少し、実行再生産数(1人の感染者が回復または死亡するまでに平均的に何人に感染させてしまうかという数)は小さくなり、ごく短期間で新規感染者の発生を急激に減らすことができる。
たとえば、実行再生産数を 0.5 程度にできれば、新型コロナの場合、15日程度で新規感染者の発生は $\frac{1}{8}$ 程度に減ることが期待できるとされる。
実際には、封じ込めに成功している国では最初のロックダウンは数ヶ月にわたっておこなわれた。
それは、封じ込め後の再拡大を絶対に起こさないためだ。
ニュージーランドでは 2020 年 3 月 23 日 累計感染者が 100 人を超え、翌日警戒レベルを 4 (4が一番危険な状況)に上げた。
さらに 3 月 25 日 非常事態宣言を発令し、翌日 3 月 26 日にいわゆるロックダウンという状況になった。
当初 4 月上旬まで新規感染者の増加は続いたが、この強い行動制限は効果を発揮し約一ヶ月後の 4 月下旬には新規感染者の発生はひとケタへ減少、さらに 5 月 4 日 ついにゼロを記録。
その後はゼロまたは 発生したとしても1 人か 2 人という状態に入る。
4月28日に警戒レベルを一段下の 3 とし行動制限をゆっくりと緩和していったが、ロックダウンの解除はさらに先になった。
この国では、国内での感染の状況を警戒レベル 1 から 4 までの 4 段階で評価し、 各段階でどのような対応が取られるのかがきちんと決まっている。
(つまり、私たちの国とは違い、感染状況の評価とそれに対応するための対策はきちんと自動的に連動しているわけである。)
ニュージーランドの専門家は、28 日間感染者がゼロの状態を続けないと新型コロナを封じ込めたとは言えないという考えをもっていたようだ。
そしてついにロックダウンに入ってから約二ヶ月半後の 6 月 8 日 24 時を持って警戒レベルを 1 に引き下げ普通の生活へと戻ることとなった。
2020 年 1 月に世界で初めて感染拡大が起こった中国の武漢では 1 月 23 日に新規感染者が 70 人まで増えてくると都市封鎖となり、厳しい外出制限がおこなわれた。
その後当面爆発的に増える状態は続いたが約一ヶ月にはほぼ収束。
およそ二ヶ月半後の 4 月 8 日に都市封鎖は解除となった。
これらの国では早期に躊躇せずロックダウンという強い行動制限をおこない、新規感染者発生をかなりの速さで減少させ収束へ向かうことができた。
一方で、ロックダウンの解除は慎重だった。
新規感染者の発生がひとケタになっても簡単には解除をおこなわず、ゼロの状態を長く続けた。
中国もニュージーランドも PCR 検査を躊躇せず積極的に大量におこなっていたが、ここまで解除に慎重だったのは、ほんの僅かの見逃しによる感染再拡大が絶対に起こらないことを狙っていたわけだ。
感染者がゼロとなった後は社会全体で協調しておこなう行動制限や個人レベルの感染予防対策は緩められるが、検査による強力なモニタリングがおこなわれる。
積極的に検査をおこない感染している人を見つけ出し、感染者と接触した恐れのある人を幅広く追跡して感染していない人との接触を断つ態勢はさらに強化された。
たとえば中国は、次のいくつかの引用に見られるような圧倒的ともいえる検査態勢を惜しむことなく構築してきた。
検査バス: suna さんの twitter から引用(Firefox で閲覧している場合、画像や動画が正しく表示されないことがあります。強化型トラッキング防止機能などをオフにすると表示されるかもしれません。もしくはリンク先で見てください。)
中国はPCR検査ができる移動実験室を次々と現場に投入している。このバスは24時間で2,000件のPCRを処理できる。それだけではなくて中国は10検体同時検査の技術を確立しているから、1日20,000件もの検査も対応可能。珠海市のPCR基地では1日39,000-390,000件の検査が可能になる。https://t.co/mztC6HN4aq pic.twitter.com/rL6N28JaRf
— suna (@sunasaji) November 12, 2020
バルーンテント型の検査施設: CRI日本語の twitter から引用(Firefox で閲覧している場合、画像や動画が正しく表示されないことがあります。強化型トラッキング防止機能などをオフにすると表示されるかもしれません。もしくはリンク先で見てください。)
【石家荘に100万人/日をPCR検査可能な臨時実験室が設置】
— CRI日本語 (@CRIjpn) January 9, 2021
河北省石家荘市は #新型コロナ 感染拡大防止のため、全市1100万人のPCR検査を行いました。8日夜にはバルーンテント型PCR検査実験室「火眼」も投入されました。この「火眼」では、一日最高100万人分の核酸サンプルが検査できます。 pic.twitter.com/OEPLDPdyMo
【PCR検査の「火眼」がわずか21時間で稼動】
— CRI日本語 (@CRIjpn) January 11, 2021
1日最高100万人分のPCR検査を測定できる「火眼」実験室が、わずか10時間で建設され、完成から11時間後に運用を開始。石家荘市は6日に全住民にPCR検査を開始し、9日午前0時に検査を完了。検査を受けた人は計1025万人で、陽性者は354人でした。#新型コロナ pic.twitter.com/aPv8FFuSMj
繰り返しになるが、封じ込め戦略では僅かでも感染者がある場所で新規に確認されるとただちにその周辺地域でロックダウンと呼べるような強い行動制限と徹底的な検査がおこなわれ、感染者を全部見つけ出し感染を封じ込めていく。
大抵の場合このロックダウンはごく短期におわり、長く続けられるケースはあまりない。
武漢で封じ込めに成功した中国では国内での感染は収束していたが、その後 10 月に青島、2021 年 1 月石家荘市で数人の新規感染者がまず数人から数十人発見されるということが起こった。
そして青島では4日間で住民ら994万7304人を対象にした新型コロナウイルスの感染の有無を探る検査を終了、石家荘市では一週間の外出禁止を課すとともに上で引用したように3日間で全住民を含む 1025 万人に対する検査を終了した。
封じ込め国では一般市民に対する検査受診の呼びかけも積極的におこなわれる。
たとえば、封じ込め国ではもちろん水際対策は徹底されているが、それでも空港や帰国者隔離ホテルなどからの少数のすり抜けが時々起こることがある。
その場合もただちに周辺地域をロックダウンし幅広く濃厚接触者追跡と検査をおこなう。
またすり抜けた感染者の足跡を情報公開して市民に接触している恐れがあれば PCR 検査を受けるように呼びかけ、とにかく感染してしまった人を全部見つけ出す。
ではここで、ニュージランド政府が運営するサイト Unite against COVID-19 から接触追跡とPCRについて書かれたページを引用してみることにしよう。
なんとニュージーランド国内に住んでいる日本人向けに日本語のページがちゃんとある。
接触追跡は、新型コロナウイルスの濃厚接触者を特定し、通知するプロセスです。
新型コロナウイルスの陽性者が出た場合、保健省及び地域保健委員会は濃厚接触者と感染が疑われる人を特定し、通知します。
接触追跡が早ければ早いほど、新型コロナウイルスの感染拡大を迅速に阻止できます。
感染拡大防止のため、以下を含む行動追跡記録を作成してください。
- 行き先
- 到着時刻
- 接触者
風邪やインフルエンザのような症状がある場合は自宅待機し、PCR検査についてヘルスラインの無料ダイヤル0800 358 5453、またはかかりつけの医師までご相談ください。PCR検査は無料です。
できるだけ早い段階で市中感染を検知することが重要です。そのためには、国民に限らず、長期・短期の滞在者も含め、新型コロナウイルス感染症の症状が現れたら、必ずPCR検査を受けてください。
現在、ニュージーランド国内にいる方は、例え有効な滞在ビザがなくても、新型コロナウイルス感染症の検査と治療を無料で受けることができます。
このように徹底的な検査・追跡の方針を掲げている。
感染者の発生や発生場所をトレーサーアプリや Unite against COVID-19 の twitter アカウントで市民に通知し、関係していそうな人は検査を受けるように呼びかけることもおこなわれている。
次にベトナムの観光地ダナンでの感染拡大の例を見てみることにしよう。
ベトナムでは 2020 年 2 月から 3 月の第一波を徹底的に押さえ死者数もゼロを続けていた。
またその後新規感染者の発生も 99 日間にわたってゼロに押さえていたが、7 月 25 日にダナンで市中感染を確認。
これはベトナムでの 413 人目の感染者となった。
ただちに接触者1079人を特定し、検査・追跡・隔離に取り掛かる。
さらに特定の地域に対し交通の往来禁止を伴う社会的隔離措置を摘要。
7 月 8 日にまでさかのぼってダナンからホーチミンへの移動があった人全員に検査をおこなうように指示し結果が出るまでは自宅隔離を要請。
7 月 30 日に 70 歳の男性がなくなり、ベトナムで初めての新型コロナによる死者となる。
その後連日 2 ケタの新規感染者の発生が続くことが多くなったが、強い社会的隔離措置と徹底的な検査・追跡・隔離により 8 月 29 日に新規感染者ゼロを達成。
その後もすでに入院していた人などの死亡はあったが、これで第二波は収束し、9 月 5 日に社会的隔離措置は緩和されることになった。
この約 1ヶ月の間に発生した感染者は 500 人程度、死者は 35 人である。
またこの間 48 万 5 千件の検査がおこなわれたとされ、これは 1 人の感染者を見つけるために平均約 1000 件程度の検査をおこなっていることになる。
感染者をゼロにすることが目標なので、それを無駄打ちとは考えていないのである。
このように封じ込め戦略をとっている国では、わずかでも新規感染者が確認されるたびに、ただちに「全員動かないで。家にいて。全員検査するから。」という事をおこなう。
そして感染者を全部見つけるために、 1 人の感染者を見つけるためだけにでも大量の検査をおこなう。
つまり、躊躇することなく強い行動制限をただちに掛け人と人との接触をできる限り絶ち、徹底的な検査をおこなって感染している人と感染していない人を分離するわけだ。
そして、このような強い対策を新規感染者の発生がゼロになるまで続ける。
以上見てきたいくつかの例で分かるように、封じ込めに成功している国や地域では、新規感染者が発生するたびに検査・追跡・隔離をし、感染者をゼロにしていくことができる態勢を持っている。
封じ込め戦略は、必ずしもウイルスを根絶する事を目指しているわけではない。
それぞれの国や地域の中で、新規感染者の発生がゼロである期間をできる限り長く保つ事を目指しているということだ。
そして実際、新規感染者ゼロの期間は長く続いている。
感染者がゼロの間でも個人レベルの感染防止対策はそれなりに続けられ、国外からの入国は徹底的に厳しく管理されるが国内での経済活動はほぼ日常を取り戻している。
この、長く続く感染者ゼロの期間は経済に対する打撃をとても小さく押さえることにつながっているわけである。
集団免疫の獲得により感染を収束させる戦略
感染して免疫を獲得した人が増えるに従い免疫を持たない人が少なくなっていくと感染させる相手が見つかりにくくなっていく。
つまり感染者は誰かに感染させる前に回復するか死亡することが多くなる。
その結果、新規感染者の発生がゼロに近づいていくようになる。
このように、大多数の人が感染することにより感染拡大を収束させる事を狙うのが集団免疫戦略である。
新型コロナの場合、6 割から 7 割の人が感染することにより集団免疫が獲得されると言われている。
もちろん感染者のうち、一定の割合で死者が出る。
大多数が感染することが前提なので死者も多くなる。
2020 年の春に厚生労働省のクラスター対策班に所属していた西浦博氏はこのまま対策をしなければ日本での死者は 42 万人になると推定した。
イギリスのジョンソン首相は2020年 3 月英国内での感染拡大をうけて当初集団免疫の獲得による収束を目指すことを表明したが、数日後に撤回。
25 万人ぐらいの死者がでることが推定されたがそれは受け入れられないという判断をしたわけだ。
ところで、集団免疫戦略はさらに緩和戦略と放置戦略に分けられる。
緩和戦略
上手に行動制限をすることにより人と人の接触の度合いを減らし、重症者や死者数が一時期に大量に発生することを避ける(つまりピークカットする)。
そのことにより医療崩壊を防ぎながら、長い期間を使って集団免疫の獲得を狙う。
だからこの戦略では、おそらく、「医療キャパシティを超えない程度に常に一定の感染者が出続ける」というのがベストということになるのだろう。
ところでたとえば、人口一億人の国でピークカットをしながら医療崩壊を避け続け、なんとか凌いでいくとき、集団免疫がいつ完成するのか考えてみよう。
65 % の人の感染して抗体をもつ必要があるとすると、 6500 万人が感染する必要がある。
医療崩壊を避けるために一日あたり 1 万人までの新規感染者の発生が許されるとすると、集団免疫の完成は 6500 日後、つまり 17.8 年後となる。
(実際には、その長い期間にウイルスの変異が何度も起こり、ウイルスはその毒性や感染力を変化させながら、集団免疫が完成する前に一般的な風邪のようにあるバランスで人類とウイルスが共できる状態となっていくのかもしれない。しかし、たとえそうだとしても、それにいたるまでに発生する死亡者数は看過できる数では収まらないだろう。)
この戦略では経済損失と医療崩壊のバランスを取るということが言われ、いつもギリギリの弱い行動制限で済ますことが優先されがちになる。
ところが、指数関数的に感染者数が増減(特に増える時は倍々ゲームで感染爆発)するものに対してギリギリのバランスをとリ続けるなどということは至難の技で、いつも感染爆発の恐れをいだきながら舵をとることが求められる。
感染爆発の兆候を掴むことは難しい。
感染爆発の兆候をつかむには十分な量の検査によるモニタリングが必要である。
そういう体制が整ったとしても、感染が起こった日から検査で感染が確定する日までそれなりの日数がかかってしまう(日本では約二週間)。
そのため感染拡大の兆候が見えたときには大抵すでに拡大が進んでしまっていたということになる。
どこにどのような行動制限を掛けるのがベストなのかという判断をするのは難しい。
経済的な損失を最小にするためにできるだけ必要最低限の弱い行動制限をかける事を狙うわけだが、ギリギリで感染拡大を押さえるためにどこにどんな行動制限をするとどのぐらい効果があるのかということを数値としてきちんと見積もらなければならない。
これも難しいことだ。
これまでの人々の行動に関する詳細なデータを得て行動パターンやメカニズムを把握し、どこでどのような感染が起きたかを分析しなければならないが、十分で質の良いデータを揃えることは簡単ではなく、しかも科学的に妥当だと思われる暫定的な結論を出すまでに時間もかかる。
その間にも事は進行中なのである。
そして暫定的ではないもっと確実な科学的結論がでるのは何年か後になるだろう。
つまり、感染症の広がりと競争をしながら不確実さが大きい恐れのある判断をいつも迫られるのである。
(一方、封じ込め戦略では、不確実な評価によるギリギリ弱い対策ではなく、無駄を恐れず確実さの高い強い行動制限を始めから適応するためそのような悩みはない。)
この戦略では経済と医療との綱引きが常に存在し続けることになるが、多くの場合経済が優先されがちで、感染は指数関数的に拡大をするということを理解できない意思決定者や甘く見積もる意思決定者が「重傷者はまだ少ない」とか「医療キャパシティにはまだ余裕がある」との判断をすることが多く、強い行動制限をかけるのが遅れてしまい爆発的な感染拡大や医療崩壊を招いてしまうということが起こりがちである。
以上見たように、緩和戦略は常に不確実不安定で難度の高い舵取りを強いられ続けることになる。
放置戦略
新型コロナは普通の病気として扱われ、特別なにも対応しないわけである。
その結果医療キャパシティを超えた重症者や死者数が大量に発生することになるが、短い期間で集団免疫の獲得を狙う。
集団免疫戦略と With コロナとワクチン
緩和戦略も放置戦略も大多数の人が感染することにより目標が達成されるので、死者も多く出る。
とくに放置戦略は医療崩壊が伴うので、医療ケアを受けられずに死んでしまう人も多くなるため一般的には緩和戦略よりも死者は多くなる。
集団免疫戦略では国民の大多数が感染することによって収束させることにしているので、まだ感染していない人も、そのうちの大部分はいずれ感染する事が予定されているということになる。
つまり、たとえ感染がとてみ緩やかに拡大している国であっても、どの人も自分の番が来るのを待っているということになるわけだ。
さらに不確実なのは、集団免疫は本当に獲得されるのかということだ。
感染することにより体の中にできた抗体はどのくらいの期間有効に機能してくれるのだろう。
またウイルスは変異し続ける。
抗体は変異したウイルスには無力かもしれない。
ブラジルのマナウスでは、6 割を超える住民が感染し集団免疫ができたと言われたことがあったが、二度目の感染が多数の人に起こり再び感染拡大することになった。
経済と感染拡大防止の両立が大事だからどちらも同時に進めるべきだという人たちが選んだのは緩和戦略や放置戦略のような戦略だ。
With コロナというのは結局このような戦略をとっているのと同じである。
ところで、死者をあまり増やすことなく集団免疫の獲得を目指すために使われるのがワクチンである。
私たちの国には戦略があるとはとても言えないが、あえて言えば、ワクチンだけを当てにしながら渋々弱い行動制限をするという緩和戦略であると言える。
しかし、これも集団免疫の獲得を目指している以上不確実さが高い。
ウイルスの変異とのイタチごっこは避けられないかもしれない。
勝ったのは封じ込め戦略をとった国や地域
これまでに述べてきたように、封じ込め戦略は、必ずしもウイルスを根絶する事を目指しているわけではない。
それぞれの国や地域の中で、新規感染者の発生がゼロである期間をできる限り長く保つ事を目指している。
そのために、わずかでもどこかで新規感染者が確認されるたびに、ただちに「全員動かないで。家にいて。全員検査するから。」という事をおこなう。
つまり、躊躇することなく強い行動制限をただちに掛け人と人との接触をできる限り絶ち、徹底的な検査をおこなって感染している人と感染していない人を分離するわけだ。
そして、このような強い対策を新規感染者の発生がゼロになるまで続ける。
一旦ゼロの状態が出来上がると、その後はゼロの状態が長く続く。
私たちの国ではテレビ、新聞などのマスメディアでは感染爆発を起こしてしまった欧米の様子について報道されることはそれなりにあるが、感染封じ込めに成功している台湾、中国、ベトナム、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリアのような国や地域の様子について報道されることがあまりにも少ない。
だから、封じ込めなんてできるわけないと思っている人がこの国にはいまだに多く、ましてやそれらの国や地域ではどのようにして封じ込めに成功したのかということを知っている人は少ない。
そのため、マスメディアでは欧米に比べれば日本は頑張っているという論調が多い。
つまり、よりひどいことになってしまった国と比べて「これで良し」としたいようなのである。
なぜもっとうまくやってのけた国をお手本にしないのだろう。
たとえ欧米に比べて死者数がケタで少ないとしても、感染して亡くなるということは、一人ひとりの亡くなってしまった当事者やその家族、友人にとってはあまりにも重い出来事である。
世界のあちこちで、そして日本でも、離れて暮らしている親に会いに行った人が親に感染させてしまい命を奪ってしまうということが起こった。
日頃から感染対策を念入りにしていてもそういうことが起こってしまった。
彼らはみな、自分と同じ思いを他の人にはしてほしくないと口を揃える。
この思いに答えるには封じ込めを目指さなくてはならないのではないだろうか。
2021年 3 月 25 日までの累積死者数を日本、中国、台湾、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドで比べてみると次のようになる。
データは Our World in data のウェブサイトより(最新のデータはこちら)
国または地域 | 死者数 |
---|---|
日本 | 8956 |
中国 | 4840 |
オーストラリア | 909 |
ベトナム | 35 |
ニュージーランド | 26 |
台湾 | 10 |
また、百万人あたりで比べると次のようになる。
国または地域 | 百万人あたり死者数 |
---|---|
日本 | 70.81 |
オーストラリア | 36.65 |
ニュージーランド | 5.39 |
中国 | 3.36 |
台湾 | 0.42 |
ベトナム | 0.36 |
中国の死者はほぼ全て昨年初頭の武漢でのエピデミックにおけるもので、ロックダウンによって封じ込めてしまったあとは中国ではほとんど死者は出ていない。
一旦封じ込めに成功した国や地域では、その後に発生する死者の数はずっとほぼゼロになっているわけである。
今後も死者はほとんど増えないだろう。
一方、日本ではこれまで(2021年 3 月 25 日まで)9000 人近くの死者が出ていて、今後も封じ込めをおこなうつもりはないようなのでさらにどんどん死者は増えていくだろう。
ワクチンだけを頼りに逃げ切りを図っているようだが、接種を進めて行く速さと感染拡大やウイルスの変異の速さとの競争になる。
もちろん後者のほうがスピードは速い。
封じ込めに成功している国や地域と比べれば、日本は圧倒的に失敗していると言える。
私たちの国ではこれまで国会でも一般市民の間でも、どのように新型コロナを乗り切っていくのかという戦略について話し合われたことは殆どなかった。
みんな、誰かがなんとかしてくれるのを待っていただけだ。
いまはインターネットという優れた情報収集ツールがある。
世界中の情報を個人で見つけることができる。
たとえば、ニュージーランドやオーストラリアがどのように封じ込めを成功させたか簡単に見つけることができる。
それらの国のメディアが英語で書いた記事まで含めればさらにたくさんの情報を得ることができる。
ググれば答えは見つかったのだ。
そして皆で話し合うべきだった。
封じ込め戦略をとっている国ではその目標が国民の間で共有され合意ができている。
それはその国が強権的であるとか、社会主義であるとかには関係ない。
民主的な国であるオーストラリアやニュージーランドでもそうである。
これらの国民は封じ込めを続けたことを今後も後悔しないだろう。
それに対して私たちはどうだろう。
あのとき、そうしてれば…と後で後悔しないのだろうか。
最後にわかりやすい比較を見ておこう。
これは「【失敗したコロナ対策 VS 成功したコロナ対策】アメリカの科学者、Yaneer Bar-Yam氏による比較」を Hinomoto Taro さんが 日本語に訳してtwitter で紹介したものからの引用である。(Firefox で閲覧している場合、画像や動画が正しく表示されないことがあります。強化型トラッキング防止機能などをオフにすると表示されるかもしれません。もしくはリンク先で見てください。)
【失敗したコロナ対策 VS 成功したコロナ対策】
— HinomotoTaro (@HinomotoTaro1) January 4, 2021
アメリカの科学者、Yaneer Bar-Yam氏による比較。
今の日本の状況があまりにも的確に描写されているので訳してみました。
※ご指摘を受けオリジナルを尊重したタイトルに変更し、訳文にも少し手を入れましたhttps://t.co/ToLawEi3ME pic.twitter.com/6mkKUassmt
参考